医療従事者インタビュー
公開日:2015.09.15
がん患者さんとご家族の心のケア
国立がん研究センター東病院
精神腫瘍科長
小川朝生先生
がんと告知された直後や治療期間中、治療後など、さまざまな段階において、患者さんとそのご家族は不安を抱えます。そのような患者さんやご家族の心の問題を専門に扱うのが、1960年代にアメリカで生まれた精神腫瘍科です。がん患者さんとご家族の心のケアについて、精神腫瘍医である国立がん研究センター東病院の小川朝生先生に、お話をうかがいました。
目次
- 患者さん向け1.がんの告知による不安や落ち込みは、誰もが経験するもの
- 患者さん向け2.治療が終わった時期も不安になりやすいもの
- ご家族向け3.ご家族が、患者さんにできることは?
患者さん向け
がんと告知されたとき、患者さんの心はどのような反応をしますか?
がんと告知されると、誰もが心に大きな衝撃を受け、不安を感じて落ち込みます。ある程度心の準備をしていたとしても、心は動揺してしまうものです。
がんの告知による心の反応
- 頭の中が真っ白になった
- 主治医から何を言われたのか覚えていない
- 自分の周りに幕が張られたよう
- まさか自分ががんになるとは…
- 何かの間違いに決まっている
- なぜ、自分だけがこのような目に遭わなければいけないのか
- 私は何も悪いことをしていないのに…
- 仕事のストレスのせいだ
…など
ほかにも、「バチが当たってがんになった」と考える方も多くいます。また、「親の介護で忙しい毎日を送ったせいでがんになった」と考え、家庭内でケンカになることもあります。そういうときは、誤解をとくために、「がんが目に見える大きさになるには通常10年ぐらいかかるので、数ヵ月や半年の過労が原因ではないですよ」と説明しています。
心の動揺だけでなく、眠れない、食欲がない、動悸がして息苦しいなどの体の症状が現れることもあります。
不安や落ち込みは、どれぐらいの期間続くものでしょうか?
不安を感じたり落ち込んだりしている時期は、通常一時的なものです。ほとんどの患者さんは、悩んだりしつつも、日常生活を営むうえでの支障は徐々に減っていき、2週間ほどで心の健康を取り戻していきます。
この時期に多い患者さんの心配は、「こんなに動揺していては、まともにがんの治療を受けられないのではないか」というものです。そういうときは、「がんと告知された人は誰でも気持ちが揺れるものですが、時間の経過とともに落ち着いてきますよ」と伝えています。さらに、2週間という具体的な目安があることも安心感につながるようです。
不安を感じたり落ち込んだりしている時期に、患者さんはどんなことをすればよいでしょうか?
まずは、ホッとできる時間、自分のペースで過ごせる時間を確保しましょう。また、食事などの生活のリズムを、できるだけ崩さないことも大切です。大腸がんは一日や二日で急に大きくなることや、取り返しがつかない事態になることはありません。
不安な気持ちが徐々に落ち着いてくれば、「たしかに辛いけれど、なんとかしないと」「がんになったのは仕方がないので、これからのことを考えていかなくては」とご自身のペースで病気について考えられるようになります。
自分の病気について、まず何を考えればよいのでしょうか?
ほとんどの患者さんにとって、がんは初めて経験する病気です。そのため、患者さんの不安の背景には、大腸がんに関する情報が不足していること、イメージができないことがあります。まずは、正しい情報を知ることを心がけてみてください。
国立がん研究センターでは、多くの患者さんが気にしていることや、心配していることをまとめた「質問促進パンフレット」を作成しており、WEBサイト「がん情報サービス」で公開しています。こういったものを参考にして、質問を準備しておけば、主治医との面談の際に必要な情報が得やすくなるでしょう。
質問促進パンフレット(主治医への質問例)
生活について
- 仕事や他の活動への影響はありますか?
- その治療中にしてはいけないことはありますか(食事、運動、家事、性生活、出産など)?
- その治療中に______(私がやりたいこと)をすることができますか?
- その治療中に______(私が食べたり飲んだりしたいもの)を飲食できますか?
治療について
- がんに対するどんな治療法がありますか?
- 抗がん剤以外ではどんな治療法がありますか?
- 各治療を選んだときの最善の見込み、最悪の見込み、最も起こりうる見込み(生存期間や生活の質)は?
- 各治療を選んだときの起こりうる合併症、短期的・長期的な副作用、後遺症は?
- 代替医療(サプリメントや健康食品)を使用していたとしたら、続けても良いですか?
家族のこと
- がんや治療によって、家族へどんな影響(経済面、家事を手伝ってもらう必要性など)がありますか?
この先のこと
- 先々の見通しは?(どれくらい生きられますか?)
それを知りたい理由は______だからです。 - 治る可能性はありますか?
出典:がん情報サービス(国立がん研究センターがん対策情報センター)
『重要な面談にのぞまれる患者さんとご家族へ』より一部抜粋
そういった不安を主治医に打ち明けにくい場合のアドバイスをお願いします。
患者さんが不安を打ち明けにくい理由としては、「不安を口にすると弱い人間だとみなされて、治療してもらえなくなる」という心配や「病院は病気の治療をするのが第一で、気持ちの問題は扱ってくれない」という思いがあるようです。しかし、患者さんには、不安をあらかじめ話してもらったほうが、治療がスムーズに進むということを知っていただきたいですね。主治医に話しにくい場合は、看護師や相談支援センターの相談員に打ち明けてみるのもよいでしょう。