医療従事者インタビュー
公開日:2015.09.15
がん患者さんとご家族の心のケア
目次
- 患者さん向け1.がんの告知による不安や落ち込みは、誰もが経験するもの
- 患者さん向け2.治療が終わった時期も不安になりやすいもの
- ご家族向け3.ご家族が、患者さんにできることは?
患者さん向け
告知後に、不安を感じたり落ち込んだりしている時期が長く続くこともあるのでしょうか?
告知後の不安や落ち込みが長く続いて、体調にも影響が現れている(不眠、食欲不振など)場合は、適応障害やうつ病かもしれません。
一般的には、がんの患者さんの20%ぐらいが適応障害やうつ病を経験すると言われています。ですから、決して特別なものではなく、がん患者さんは誰でも経験する可能性があります。
どんなときに適応障害やうつ病を疑い、相談すればよいでしょうか?
適応障害やうつ病では、焦燥感が前面に出ることが多く、不安で落ち着かない、何も考えられないといった症状が現れます。しかし、そういった “心の症状”だけでなく、“体の症状”も現れます。例えば、動悸がして息苦しい、冷や汗が出る、めまいがするなどの自律神経症状や体の痛みが続く場合には、適応障害やうつ病を疑い、精神腫瘍科などに相談してください。長期間続いていなくても、日常生活に支障があれば相談してください。
このような症状が続くときは気軽に相談してください
- 不安で落ち着かない
- 何も考えられない
- 動悸がして息苦しい
- 冷や汗が出る
- めまいがする
- 眠れない
…など
適応障害やうつ病への対処法がどのようなものなのか、教えてください。
精神腫瘍科では、まず“体の症状”に対処します。体の痛み、不眠や気分の落ち込みなどがある場合には、それらの症状を改善するために薬物療法などを行います。次に、不安の根本原因を明らかにするために状況の整理をします。現在どんな状況で、これからどんな治療をしていくのか、患者さんご自身が理解できているかを確かめます。
不安の例(1)
病気や治療についてよくわからないことによる不安や、これからの生活についての不安を抱えている
このような場合、患者さんが病気や治療、これからの生活について理解することで、不安は解消されます。そのために必要な情報を説明し、一緒に調べることもあります。
不安の例(2)
患者さんが、主治医とうまく話せないことを悩んでいる
ほとんどの場合、思っていることを主治医に伝えられれば、問題は解決します。そのため、主治医にどう話したらいいのかを一緒に考え、伝える練習をすることもあります。
適応障害やうつ病にならないためのコツを教えてください。
大切なのは、無理をしないことです。100メートル走のつもりでがん治療に臨むと、途中で息切れしてしまいます。
マラソンだと思ってペースを落とすことで、精神的な負担はずいぶん軽くなると思いますね。
続いて、手術後の患者さんの心の状態についてお聞きします。
退院した後や術後補助化学療法を終えた後の患者さんは、どんな不安を抱えているのでしょうか?
治療が転換点を迎える時期は、患者さんは不安になりやすいものです。「この体の状態で、社会に戻れるのか」「仕事に戻ったときに、同僚とうまくやっていけるのか」などの不安も出てくるでしょう。
入院中は一日に何度も医師や看護師と顔を合わせ、退院後も抗がん剤治療をする場合には数週間に1回通院していたのが、治療が終わると、急に通院間隔が3ヵ月ぐらい空きます。そうすると、病院と距離ができたと感じられて、「何かあっても、すぐに相談できないのではないか」「体に異常があっても、自分では発見できないのではないか」という不安な気持ちになります。医療者からすると、治療が終わって患者さんを送り出せるのは、喜ばしいことです。しかし、患者さんの中には、病院に見捨てられたように感じる方もいるようです。
そういった社会復帰への不安には、どのように対処すればよいでしょうか?
この時期に不安になるのはごく一般的なことです。気持ちが落ち着くまでに誰でも3ヵ月~半年ぐらいはかかるという認識をもてば、少し気が楽になるのではないでしょうか。不安を完全になくすのは、難しいかもしれません。しかし、「これくらいはできそう」、「次はこのくらいまで大丈夫かも」と、次第に不安とうまく折り合いをつけた生活を送れるようになるでしょう。
再発や転移への不安に対しては、いかがでしょうか?
再発や転移が将来起きるのではないかという不安は、たしかに手術や術後補助化学療法を終えた多くの患者さんが抱えています。しかし、その場で解決できる問題ではないため、まずは目の前の問題を解決することを優先して、不安の種を少しずつ減らしていくのも一つの手だと思います。
目の前の問題としてどういったものがあるのでしょうか?
たとえば、排便に関して悩みをもつ患者さんがいらっしゃるとします。直腸がん手術の後や抗がん剤治療中に下痢が起こることがあり、排便のコントロールがうまくいかず、外出するのが怖くなって家に閉じこもってしまう方もいます。一緒に対処法を考えることができますので、困っている場合には主治医に相談してみてください。
これから治療をはじめる患者さんへ、メッセージをお願いします。
がんと告知された多くの方は、がんの治療がその後の生活のすべてのように感じてしまいます。「もう仕事は辞めて、がんの療養に専念します」という方も多くいます。しかし、現在のがんの治療の目標は、今までできていた生活を続けていくこととされています。ですので、がんの治療が生活のすべてとは思わずに治療に臨んでほしいと思います。